設計部長になって最初に気づいたのは、「自分が一番うまく設計できる」というスキルと、「チームが最大のパフォーマンスを発揮できる環境をつくる」というスキルは、まったく別物だということです。5名の社員と3名のパート社員——計8名の設計部を率いながら、私はその違いを痛感し続けてきました。
この記事では、建設会社の設計部長として実際に取り組んできたチームマネジメントの考え方と具体的な施策を、現場目線でお伝えします。マネジメントの教科書ではなく、中小建設会社の現場で使えるリアルな話です。
設計部長に求められる役割の転換
設計部長になる前は、私自身が担当者として複数案件を抱え、図面を描き、お客様と打ち合わせをこなすことが仕事の中心でした。ところが部長になると、自分が動くのではなくチームが動けるようにすることが仕事の本質に変わります。
この転換に失敗するパターンは「プレイングマネージャーのつもりが、プレイヤーのまま」です。自分が動き続けることで短期的な案件は回るかもしれませんが、チームメンバーが育たず、自分が抜けると機能しない脆弱な体制が続きます。私も最初の1年間はこの罠にはまり、気づいたら深夜まで自分だけが図面を描いている状態になっていました。
5名チームを動かす4つの実践コツ
①役割と責任範囲を明確に定義する
中小建設会社の設計部では「なんでもできる人がなんでもやる」という文化が根付きがちです。一見効率的に見えますが、実際は誰の仕事かわからない曖昧ゾーンが発生し、漏れや重複が起きます。
私の部門では案件ごとに「担当設計者」「確認・チェック担当」「積算担当」を明示し、それぞれの責任範囲を一覧表で見える化しました。社員5名は案件規模に応じて「主担当」として動き、パート社員3名は「図面作成・データ整理」に特化する形に整理しました。これだけで「あの件、誰がやるんですか?」という質問が激減しました。
②週次の短い進捗共有を習慣化する
長い会議より短い定例の方が有効です。私の部門では毎週月曜の朝10分間、全員が参加する進捗共有を行っています。各担当者が「今週の案件状況」を30秒で報告し、ボトルネックがあれば即座に助け合う——このサイクルが機能し始めると、問題が小さいうちに発見できるようになります。
GLOOBEのBIMモデルを画面に映しながら進捗確認するようになってからは、「どの部分が完成しているか」が視覚的に一目でわかるため、会議の密度が上がりました。図面を見ながら話すことで、言葉だけの報告よりも認識のズレが少なくなります。
③失敗を責めない文化をつくる
設計業務にはミスがつきものです。寸法の誤記、法規の見落とし、変更連絡の漏れ——どんなに優秀な担当者でも起こりえます。問題はミスを責める文化が「報告の遅れ」を生むことです。早期に発見・共有されれば小さな修正で済む問題も、隠蔽によって大きなトラブルに発展します。
私が徹底しているのは「ミスを見つけたら即報告してほしい。責めるのは仕組みを責める。人を責めない」というルールです。報告した担当者を責めるのではなく、「なぜそのミスが発生したか」を一緒に考えてチェックリストや手順を改善することを繰り返しています。この積み重ねが、チーム全体のエラー率を下げていきます。
④パート社員の強みを活かす業務設計
パート社員はフルタイムではないため、「単純作業の補助者」として扱われがちです。しかし私の部門のパート社員3名は、それぞれ建築CADの経験者・積算経験者・行政書類作成経験者で、専門スキルが高い人材です。彼女たちの能力を「図面コピーや整理」だけに使うのはもったいない。
パート社員が集中して取り組める業務を明確に設計することで、社員が高度な判断業務に集中できます。具体的には、GLOOBEへのデータ入力・確認申請書類の整理・積算補助をパート社員が担当し、社員は設計判断・お客様との打ち合わせ・施工者との調整に注力できるよう役割分担しています。
人材育成——「教える」よりも「経験させる」
設計の仕事は、マニュアルだけでは育ちません。実際の案件を経験しながら判断力を磨くことが不可欠です。私が育成で意識していることは、少し背伸びした案件を任せることです。
担当者の現状スキルより少しだけ難易度の高い案件を「一緒に考えながら」担当させることで、実践的な判断力が身につきます。「失敗したら大変なことになる」という恐怖からすべて自分でやってしまうのは育成の機会を奪うことになります。フォロー体制を整えた上で経験させる——これが私の育成スタンスです。
月1回の1on1で個別の課題に向き合う
チーム全体への働きかけと並行して、個人との対話も重要です。私は社員5名と月1回の1on1面談を行っています。テーマは「業務の困りごと」「スキルアップの希望」「職場環境への意見」の3点が中心です。
1on1によって、普段の業務連絡では出てこない本音の課題や不満が見えてきます。「この仕事が向いていないかもしれない」という相談が来たとき、早期に対処できるかどうかが人材定着に直結します。中小建設会社では一人欠けると即座に業務が回らなくなるリスクがあるため、早めの察知と対応が特に重要です。
繁忙期のマネジメント——案件の波に飲まれないために
建設会社の設計部は繁忙期と閑散期の波が大きい業種です。年度末や住宅展示会シーズンは問い合わせが集中し、全員が複数案件を抱える状態が続きます。この時期にチームが崩れないようにするために意識していることが3つあります。
第一に案件の優先順位を全員で共有すること。「どの案件が最も急ぎか」を可視化しないと、各自が自分の判断で優先順位をつけ始め、全体最適より個人最適になります。私は案件一覧と締め切りをホワイトボードに貼り、毎朝全員で確認しています。
第二に助けを求めやすい雰囲気をつくること。「忙しそうだから言い出しにくい」という遠慮が積み重なると、誰かが一人でパンクします。「困ったらすぐ言って」を口だけでなく、実際に助けに動く姿を見せることで、遠慮のない相談文化が育ちます。
第三に部長自身が業務量を調整できる余白を持つこと。部長が100%の稼働率でこなしているとフォローが不可能になります。意識的に自分の業務を70〜80%に抑え、チームのフォローや緊急対応に使える時間を確保することが重要です。
設計部長が直面するよくある課題と対処法
課題①:ベテランが若手に技術を伝えない
中小建設会社では、長年の経験者が「見て覚えろ」スタイルで、体系的な技術伝承ができていないケースがあります。私の部門では、案件ごとに「設計判断の理由」をGLOOBEのメモ機能や共有ドキュメントに残すルールを設けました。なぜこの壁位置にしたか、なぜこの屋根形状を選んだかを記録することで、暗黙知の一部を形式知に変えています。
課題②:外部(お客様・施工者)とのトラブルが部内に持ち込まれる
お客様からの急なクレームや施工現場からの設計変更要求が担当者に直撃すると、精神的なダメージが大きく業務が止まることがあります。私は「お客様・施工者との重要な折衝は部長が入る」というルールを設け、担当者一人に対処を丸投げしないようにしています。担当者のフォローに入ることで、信頼される部長像をチームに見せることにもなります。
課題③:BIM・IT化への抵抗感
GLOOBEなどBIMソフトの導入時、ベテランほど「今まで通りの方が早い」と感じて抵抗することがあります。私は無理に全員を一度に変えようとせず、まずITに前向きなメンバーで成功事例をつくり、それを見せることで自然な波及を促しました。「あの案件はBIMで変更対応が早かった」という実績が、懐疑的なメンバーの背中を押します。
まとめ——チームが動けば部長は動かなくていい
設計部長の理想の状態は、自分がいなくても案件が回るチームをつくることです。そのために役割の明確化・進捗共有の仕組み・心理的安全性の確保・個別育成を地道に積み重ねます。
完璧なマネジメントなどありません。私も失敗しながら、毎年少しずつチームの状態を改善しています。それでも「3年前よりチームが確実に強くなっている」という実感があることが、設計部長という仕事の醍醐味のひとつだと感じています。
マネジメントツールの活用——アナログとデジタルの使い分け
チームマネジメントを支えるツール選びも重要です。私の部門では高価な専用ツールは使わず、シンプルな組み合わせで運用しています。
案件の進捗管理にはホワイトボードの案件一覧を使っています。デジタルツールはスマホやPCを開く一手間があり、朝礼の場で全員が同時に見て話し合うにはアナログのホワイトボードが最も速いと実感しています。案件名・担当者・提出期限・現在のフェーズ(初回提案/変更対応/確認申請中など)を色分けした付箋で管理しています。
一方、設計データの管理にはGLOOBEのBIMモデルと共有フォルダを組み合わせ、どこからでも最新データにアクセスできる環境を整えています。パート社員がリモートワーク対応できるようにしたことで、急な欠勤時でも継続して作業できる体制になりました。
設計部長として意識する「自分自身のマネジメント」
チームのマネジメントと同様に、自分自身のエネルギー管理も設計部長の仕事です。部長が疲弊してネガティブなムードを発散すると、チーム全体の雰囲気が下がります。
私が実践していることは以下のとおりです。まず、週に1日は「現場見学や勉強会参加」の時間を確保し、デスクワーク・マネジメント業務から離れるリフレッシュをします。新しい建材や施工技術を見ることで、設計のアイデアが湧き、部員への話題提供にもなります。
次に、判断を先送りしないことです。部長に「これどうしましょう?」と質問が来たとき、「後で」と答える癖がつくと、部員の仕事がそこで止まります。即断できない場合でも「明日午前中に判断する」と期限を伝えることで、チームの流れを止めないようにしています。
中小建設会社の設計部長ならではの悩み——経営者との距離感
大企業とは異なり、中小建設会社では経営者との距離が近い分、設計部長が現場の声を経営に届ける役割も担います。現場では必要な人員・ツール・予算が不足していても、それを経営者に説明して改善につなげる力が必要です。
私がBIM導入の際も、「GLOOBEの導入で変更対応の工数を年間○○時間削減でき、それは人件費に換算するとおよそ○○万円に相当する」という試算を提示して承認を得ました。感情論ではなく数字で経営者に提案する習慣が、設計部の環境改善を加速させます。
また、経営者が「なぜこんなに時間がかかるのか」と言う場面でも、設計業務の複雑さ・法規対応の工数・お客様との調整コストを、具体的なデータで説明できるように日頃から記録しておくことが大切です。設計部長は経営者と現場の通訳者でもあります。
今後のチームマネジメントの方向性
建設業界全体で人手不足が深刻化するなか、設計部門は「少ない人数で多くの案件を高品質に対処する」ことを求められます。そのためにBIMをはじめとするデジタルツールの活用は避けて通れません。
一方でデジタル化が進んでも、チームのモチベーションを維持するのは人間的な関わりです。1on1・進捗共有・ミスを責めない文化——これらはAIやツールでは代替できません。テクノロジーと人間的マネジメントの両輪を回し続けることが、これからの設計部長に求められる力だと感じています。
設計部長という役職は、業務量も責任も多い大変なポジションです。しかし、チームが少しずつ成長する様子を見られることは、純粋に設計の仕事を楽しんでいた頃とは違う種類の、深い充実感をもたらしてくれます。
設計部マネジメントで参考にした考え方
マネジメントの勉強として私が役立てた考え方をいくつか紹介します。まず「心理的安全性」の概念です。Googleのチーム研究(Project Aristotle)でも確認されたとおり、チームのパフォーマンスを左右する最も重要な要因は心理的安全性、つまり「このチームで発言・失敗しても大丈夫」という感覚です。設計部では法規上の判断ミスや施主との認識ズレなど、隠蔽すると大きなトラブルになりうる問題が潜みやすいため、この概念は特に重要です。
次に「仕組みで防ぐ」発想です。ヒューマンエラーは個人の責任に帰結させると再発します。設計チェックリスト・確認申請前レビューの手順・変更履歴の記録ルールなど、仕組みを整えることで人の注意力に依存しない品質管理体制をつくっています。
これらの考え方は特別なものではありませんが、建設会社の設計部という具体的な現場に当てはめて実践することに意味があります。理論を知っているだけでは変わりません。毎日の朝礼・1on1・案件振り返りという地道な実践の積み重ねが、チームをつくっていきます。



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